本音を言える間柄でも本音を言えば良いわけではない

「可愛らしい服だね」
「そうかな?ありがとう」
「礼を言われる事ではないよ。思うがままの発言で特に誉めたわけではないからね」
「それでもさ。それでも僕は嬉しかったから礼を言ったんだよ。君が思うがままに発言したと言うならば僕も思うがままに発言しただけだからね」
「では続きを聞いても同じ事を言うのかな?」
「どうかな?というか続きが在ったのかい?」
「在ったよ。無い方が良いのかもしれないけれど、しかし僕の心情を正確に表すのならば続くべきだった言葉が在った。その前に君が発言してしまったけれど」
「それは済まなかった。で?」
「で?とは?」
「続きは?」
「続けても良いのかな。聞かない方が良いかもしれないよ?」
「この状況で聞かない方が余程に良くないよ」
「そう。では続けるけれどね、君は可愛くない。全く可愛くないなのに服が浮いておらず馴染んでいる。不思議で仕方ない。どういうカラクリなのかな?」
「それは絶対に誉めていないだろう?」
「だから、特に誉めたわけではないと言ったよね」
「そうなんだけどさ。そうなんだけど礼を言ったのが無駄だった気がしてきた」
「それは僕には分からない。それよりも理解不可能な不思議の解答が欲しいな」
「僕が可愛くなくて服が可愛らしいからバランスがとれているのだろうよ」
「そのようなものなのかな?何か違うような気がするのだけれど気のせいなのかな」
「気のせいだよ」


誉める事も誉められる事も無く。