人は誰が為に偽る

在りし日の僕と僕以外の誰かの会話
「君はここ暫く恋人が居ないよね」
「そうだね。それが?」
「淋しくないのかい?」
「君は恋人が居ないと淋しいのかな?」
「質問を質問で返さないでほしいな。まぁ良い。そうだね。居ないと淋しいね」
「友人が居るだろう?」
「居るけれど、友人で埋められる淋しさと恋人で埋められる淋しさは違うよ。そんな分かりきった事を言わせないでほしいな」
「悪いね。それで?」
「君にも友人は居るだろう。けれどそれでは埋まらない淋しさが在ると思う。例えば夜とかね」
「それはセックスする相手が居ないという意味かな?」
「違うよ。独りで眠るのが辛い夜も時には在るだろうけれど傍に恋人が居れば少しは楽になるという事だよ。単純に温もりが欲しい時も在るだろう?」
「在るのかもね。そう言う君はどうなんだい?」
「勿論在るよ。今、好きな人も居る。だけど一筋縄ではいかない金城鉄壁な人でね、恋人という関係になるのにはなかなかに難しい相手なのだよ」
「それは残念な話だ。しかし君に金城鉄壁と言わせるとは相当な人だね」
「まぁね。でも君はそういう素振りを絶対に感じさせない。だからこそ訊いてみたいのだよ。君は淋しくないのかな?」
「嘘を吐くのは簡単だけど嫌いだし上手に受け流す技術を持っていないから正直に言うけど自分で選んだからね。仮に淋しいと思わない事もないかもしれなくても、それだけでそれだけでしかない。口にする資格なんて無い。どころか思う資格すら無いよ。なんて本当は恋人が出来ないだけなのだけどね」
「相変わらずとんでもない嘘吐きだね。質も数もだけど何よりも嘘を吐く事に抵抗が無い。誰よりも嘘が嫌いなのに誰よりも嘘を吐く」
「見破る君の方がとんでもないよ。それに分かっているのなら気付かない振りをしてほしいものだね」
「君程に嘘を吐けないから。しかし脆過ぎる感情と強過ぎる意志だね。悪くはないけれど多少は加減したらどうかな?生き難いだろう?」
「出来ると思っているのかい?」
「無理だろうね。そもそもそのつもりが無いのだから」
「分かっている事を一々確認するのは止めてくれないかな」
「ふふ。本当に悪くない。本当に本当に悪くないね」
「最悪だよ」